「――皆の記憶を消して、如何するつもりだ…」
きらきらとダイヤモンドダストが舞い落ちる夜のキッサキ神殿で。
それには全く似つかわしくない格好をした二人が対峙していた。
一人は炎のように暖かな黄色、一人は無機物のように冷たい青銅色。
彼らはまるで正反対。
「こんばんは、マツリ様」
「“我”を知らぬくせに様付けか、テンコ」
「これはとんだ無礼を。失礼いたしました」
恭しく一礼をし、テンコは去ろうとする。
それに対しマツリはふわふわと浮いて行く手をさえぎる。
「とおせんぼう、ですか」
「話はまだ始まってすらいない…」
「そうですね、では強硬手段に入ってもいいですか?」
「断る」
テンコが目を開こうとした瞬間、マツリは神通力を発動させ、その眼を閉じさせた。
最近眠りから覚めたとはいえ、かなり勘は戻ってきているらしい。
「――1000年も生きてると、いろいろと面倒なんですよ」
「…何故、仲間の記憶を消した」
「……」
ふわり、揺らめく鬼火。
敏感に察知し、それすらも神通力で押さえつける。
「我は炎が嫌いだ」
「そうでしたか…どうりで炎が出せないわけですね」
「汝が答えるまで、我は此処にとどまろう」
「ふふ、どうして神様はこうも我儘なのでしょうね」
ふと自分の姉を思いだし、テンコは少し呆れたような口調で言った。
マツリは我関せずといった表情で答えを待っている。
「……僕は彼らと関わりすぎた、それだけです」
「それが何だというのだ」
「情が移る、というか何というか…僕の嫌な部分を見られる前に、去った方がいいでしょう」
「だから何だ」
「だから、ですか」
全く会話が成り立たないのは、相手が人知を超えたカミであるからか。
それとも、感情を持たない無機物だからか。
ただ単に、そのカミが図太い神経を持っているだけなのか。
おそらく最後の選択肢であろうと、テンコは思案した。
「我は…今の仲間に出会えて、良かった、と思う」
「…なぜです?」
「生きる時が異なる我を、“我”として認識していたからだ」
「…?」
「皆が皆、口を揃えて言うのだ。我は我だ、と」
いつの時代のひとでもいいじゃない、マツリはマツリだよ――その一言で、どれだけ救われたことか。
誰もそのことを咎めるものはいなかった。
今も、昔も。
「僕は、あなたのような霊験あらたかな存在ではない」
「それは、関係ない」
ふわり、しかし、ちくり、と刺さるような寒さの風が通り過ぎると、曇天の空は再び月を示す。
「…彼の者たちは、汝を受け入れていた――違うか」
「……」
否定はできなかった。
自分が不思議な力を使っても、何ら気にせずに、ごく普通に接してくれた。
そもそも、自分たち全員、何らかのわけがあってここに集っている。
それを聞かないのが約束で、何かを知ったとしても、それを全て理解する。
――それが彼らのスタンスであり、マスターであるコウキのスタンスでもあった。
だけど、それでも。
どうしても引っかかることはあって。
「――答えは、出たか」
「……もう少し、僕には考える時間が必要みたいです」
「…そうか」
「ところで、」
今度はテンコから口を開く。
「もし仮に、受け入れられなかったとしたら――あなたは、どうしますか」
「…“今”は必然の重なりで生じるものだ。そのようなことはあり得ぬ」
「そうですか…では、僕はこれで失礼してもよろしいですか」
「……」
ふわり、マツリが道を譲ると、さくさくとテンコはマツリの横を通り過ぎ、鬼火とともに消えていった。
「……汝の未来は――」
マツリが見た未来は、皆が笑いあうものであった。
マツリさんの過去話書いてない、ということに今更気づく。
かなり放置してたよ。
きっとあれです。
テンちゃんが恋した女性はきっとマツリさんを崇拝してた。ってことは農耕か。
でもその頃はマツリさんはもう封印されていたからあんまり意味ないんですけど。
……はっ!マツリさんって…田の神だったのか……!?
マツリさんはきっとまだ、未来を映し出す鏡を持ってる、はず。
でも大きい鏡じゃなくちっちゃい手鏡。
とにかく無性別のマツリさんの三人称に困った。
彼なのか彼女なのか……うん。
あたしは無性別で考えてました。女の子寄りっぽく見えるけど、無性別。
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