ソファでいつの間にか寝てしまっていた。
意識がふわり、戻ってくると、目の前には見知らぬ“何か”があった。
いや、見たことがない訳ではない。似たようなものなら今までも見てきたじゃないか。
なぜそれを向けられているのかわからずきょとんとしている自分の顔が、丸いレンズに映っている――ところを、ばしゃん、と大きな音と強烈な光が包んだ。
……あぁ、写真を撮られているのか――納得してまた微睡む意識に身体を委ねようとして、ふと意識が戻った。
「――っ!」
「あ、おはよー」
ひょこ、とフラッシュのたかれた方から顔を出される。
「……」
「見て見て、これ、映写機!知ってるー?」
「…知ってる、けど」
「青空市で買ったの!なかなか古くてちょーいい感じー」
「…うん、」
「でしょー!?で、これが撮った結果!」
ぴらっ、と見せられたのは一枚の写真。
ピンぼけもなく、よく撮れていた。…ある一点を除いては。
「…俺のっ……!?」
その写真に写っていたのは自分の寝顔。
急に恥ずかしくなって、条件反射的に取り返そうとする。
すると上手に避けるもので、彼女はさらりと避けてカメラを持ったまま、
「あれ?もしかして……写真苦手?」
少し寂しそうな顔をしていうものだから、ちょっとどう返答するか迷って、
迷って、
迷って、
迷って。
「………少し」
刹那の沈黙。
「…思い出にとっておきたくても?」
「……やっぱり、苦手」
「…どうしても?」
「……できれば」
「そっかぁ…」
あまりに彼女ががっかりするものだから、自分もどうにも居たたまれなくなって、
「……じゃあ、」
「へ?」
「なーに読んでんの?」
「……っ!」
とっさに栞を挟んで本を閉じた。
閉じた途端に、さっと回収される。
「へぇ、外国文学?なかなか洒落てるとこあるよねお前も」
「…人が何読んでようが――」
「勝手だけどね、でも」
「まさか彼女の写真を栞にしてるなんてねー?」
「じゃあ、それ貸して」
「へ?…あっ」
「…こっち、ちゃんと向いて」
ばしゃり。
「…これなら、俺の持ってても、いいよ」
俺は君のを持ってるから。
君が思い出に残したいのなら、俺だってその思いは同じなんだ。
だけどそんなことも言えずに、俺は照れ笑いをして彼女にカメラを返した。
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