僕が生まれた時から持っていた、柔らかな、それでいて力強い光を放つ石。
姉さんに聞いてもその石の効果についてはわからず、だけどなぜか気に入っていたからずっと持っていた。
「主を守るためには身長を伸ばす必要があります」
幼いころ背が低かった僕は、姉にこう諭された。
「どうして?」
「背が高い方が何かと便利でしょう?遠くにいる主を狙う怪しいものも見えますし、高いところにあるものを取ることもできます」
「僕このままでいいんだけど」
「いいえいけません!誰が何といおうとわたくしが伸ばして差し上げますわ!さぁ、そこに立ちなさい」
姉の暴走に逆らうことはできず、しぶしぶと言われたところに立つと、姉は手に意識を向け始めた。
「さぁ!伸びなさい!」
「――っ!?」
成長痛にも似た関節の痛みが全身を駆け巡る。
どうやら念力で縦に伸ばされているようだった。
「痛い痛い痛い!姉さんもういいよ!やめて!」
「いいえまだです!もう少し…!あっ」
姉さんの驚きの声とともに、ぴたり、痛みがおさまった。
「…念力が切れてしまいましたわ」
「……助かった…」
僕はへたりと座り込んで、残る痛みがおさまるのを待った。
座り込んだ時に、ころんとポケットから石が落ちた。
「…ところで姉さん」
「どうしました?」
「僕はどうしてこの石を持ってるのかな?」
「何度も言ってますでしょう?わたくしにはわかりませんわ」
姉はそう言った後、ですが、と付け加えた。
「もしかしたらそれは…主となるべき人物をお守りするのに役に立つものかもしれませんわね」
「どういうこと?」
「たとえば、主をお守りするために自らの力を高めるものかもしれませんわ」
「ふーん…主とかなんとかって、よくわかんないけど。ずっと野生で過ごしてたら意味ないじゃない」
「ですが、わたくしたちは主をお守りするという使命を持っていますわ。ですからいつかきっと、それがニンゲンであってもそうでなくても、主となる者が現れて、その方のために尽くす――近い未来、そうなるかもしれませんわね」
それからほどなくして、姉はニンゲンに仕えることになった。
その時に姉にテレポートを放たれ、僕はホウエンから遠い遠いシンオウに飛ばされた。
シンオウは僕と姉が生まれたところだったから、それほどさみしいというわけではなかった。
今となってはそれも虚勢だったのかもしれないと思うけれど。
それからしばらく、僕は、僕が生まれたズイの遺跡の一番奥で過ごした。
アンノーンと話をするのは飽きなかったし、いちばん奥になんて誰も来なかったからずっと安心して暮らしていた。
「ねぇアンノーン、キミたちはこの石が何なのかわかる?」
『その石は「めざめいし」だよ』
『なぜルイが持ってるの?』
『どうしてルイはそれを持ってるのに進化しないの?』
「…どういうこと?」
アンノーン達は何かを知っているようだった。
『けど!ルイはすごい!選ばれたんだ』
『でもまだ――めざめない』
「?意味がわからないんだけど」
『――あ!誰か来た!』
『逃げて!逃げて!』
アンノーン達が一目散に逃げて行く。
何があったのかと思い後ろを向くと、
ニンゲンがいた。
「どうしてこんなところにラルトスが…迷子になったの?」
ひょい、と抱きかかえられ、僕はズイの遺跡を去ることになった。
それから1年。
「そのラルトスとデルビル、僕が引き取ってもいいですか?」
「…大事にしてくれますか?」
「えぇ、美女の頼みでしたら破ったりしません」
「……」
「ユリ、彼は大丈夫だと思うよ。万が一何かあったら僕が破壊光線撃つから」
「…わかりました。よろしくお願いします」
こうして、僕は今の主に仕えることになった。
「あら、ルイ」
「姉さん…!?」
「ずいぶん背が伸びて…わたくしの念力のおかげですわね」
「……そうだね」
ヨスガで会ったコーディネーターの手持ちの中に、姉がいた。
そのコーディネーターと僕の主は共に行動することになった。
必然的に、姉と共に行動することにもなった。
「貴方、まだキルリアなのですか?」
「うん。でももうすぐサーナイトに進化するよ」
「そうですか。貴方にも守るべき主ができたのですね」
「…うん、たぶん」
その頃はまだ、主だとか守るだとか、そう言ったことにはピンと来ていなかった。
そうして過ごしてきて、ついに時はやってきた。
「ズイの遺跡…久し振りだなぁ」
「ルイはここに来たことがあるのか?」
「というより、ここで生まれたから」
「オレはトバリのギンガ団アジトで生まれたぜ!」
「あたしは…国際警察の研究室ね」
他愛もない会話をしながら進む。
『ルイだ!ルイ、久しぶり!』
「久しぶりだねアンノーン」
「ルイ、アンノーンと会話ができるのか?」
「うん」
「それってすごいですね!じゃあこの壁に描かれているアンノーン文字も読めるんですか?」
「え?…うん。読んでみる?」
壁に手を触れて文字を読もうとしたとき。
「っだー!もうイライラする!勝負だ!」
遺跡マニアが主に勝負を仕掛けてきた。
「また勝負ですか?…いいですよ」
こうして勝負が始まった。
こちらのレベルが低いせいか、互角ではあったが若干押され気味だった。
一番手に出たシャルルはワンリキー相手に善戦したものの最後の最後で先手を取られ、
続くフランソワがワンリキーを倒すものの、イシツブテの岩落としに倒され、
ジャンヌが速攻で倒したかと思えばユンゲラーに倒され、
エドがユンゲラーを倒したら向こうは最後の1匹。
しかしそれは皮肉なもので。
最後の1匹はヒポポタスだった。
エドもマリーも打つ手がなく、最後は僕一人。
しかも防御が低いから一撃で決めなければ倒されてしまうだろう。
「ルイ、マジカルリーフだ!」
マジカルリーフを放つ。
しかし特攻の低さとタイプ不一致が相まって、
倒せない。
「ヒポポタス、噛みつく!」
「――っ!」
エスパータイプの僕にとって、悪タイプの技は効果は抜群。
一瞬意識がクラッとして、よろけた。
「ルイ!」
主の声が遠い。
このままだと確実に――やられる。
それはいやだ。
主を――守らなければ。
『――ルイ、』
――この声は?
『ルイ!』
――アンノーン…?
『ルイ、その石を使って!』
…石?
『めざめるよ!』
めざめる…?どうやって?
『石を出して!』
言われたとおりに僕は石を取り出した。
淡いエメラルドグリーンの石が、かすかに光り出す。
『――でもまだ、めざめない』
『けど大丈夫、僕たちが手助けするから――』
『強く、願って。ルイ』
強く……?
『今の気持ち、願って』
今の気持ち――。
そうだ、僕は。
主を、みんなを守らなきゃ。
負けるわけにはいかないんだ――。
『いくよみんな、“めざめるパワー”!』
まばゆい光が僕を包んで。
気がついた時には。
「ルイが……進化、した?」
「だけどあれはサーナイトじゃない」
「エルレイド、か」
主たちの声が鮮明に聞きとれた。
「……行くよルイ、サイコカッターだ!」
「主のためならば」
初めて出す技でも勝手はわかっていた。
繰り出した一撃は急所にあたり、敵を両断する。
先ほどまで苦戦していたはずなのに、気がついたら勝っていた。
「ありがとうアンノーン。助かった」
『だって僕たちはルイの仲間だから』
『だけどごめんね、ルイ』
「え?」
『僕たちの力が強すぎて、右目が黒く染まっちゃった。綺麗な紅い色だったのに』
僕の右の瞳は、それまでの鮮やかな紅から、闇のような黒色になっていた。
それは、アンノーンと同じ色。
『隠した方がいいかもしれないよ』
「いいよいいよ、気にしないで。助けてくれただけで僕は本当にうれしいから」
『それじゃあ…』
Fの字にそっくりなアンノーンが、僕の前髪を下ろして右目を隠させた。
そして、ぱちん、と何かを髪に留める。
『ルイは優しいから、ありがとうの気持ち』
『本当は僕たちが力を貸すのは駄目なんだ』
『ばれたらルイが大変な目にあうんだ』
『ごめんね、ルイ』
口々に出される言葉をすべて聞いて、本当はこれが禁忌だったことを知り。
「…本当に、ありがとう」
きっとこのことがばれたら彼らもただでは済まないだろう。
『私たちのせいでこれから生きづらくなっては欲しくないから』
『だから、ちょっと大変だろうけど、隠してて?』
「わかった。アンノーン達にこれ以上迷惑をかけられないもんね」
髪に留められた飾りに触れて、笑顔で返した。
おしまい。つか収拾付かない笑
これギャグですよ。特に最初の方とか。
たぶんアンノーンと契約したんです。進化する代わりにいろいろと不自由になるよ。
どちらも善意でやったんだけど、はからずしもみたいな。
ちなみに進化のくだりはツバキくん→ゆっくん→おにーやんの順。
おにーやんはーなんでもーしっているー。
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