「ウザい、消えろ、氏ね」
そう言って相手を遠ざける。
構ってくるな、本気でそう思ってるから。
俺が発する言葉のすべてがぐさぐさと刺さっているのは、もちろん知っている。
それでも笑顔でいるのも知っている。
その笑顔がほんの少しだけ、本人ですら気付かないほど少しだけ、ほんの一瞬歪んでいるのも知っている。
それに罪悪感を感じないわけがないだろ?
本当は話もしたいし持ってくる菓子も食べたいし、遠ざける理由は一つもない。
だけど俺に構ったら、怪我どころじゃあ済まないから。
もっともっと穏便な解決の方法もあるだろうけれど、そんなんじゃお前が聞くはずもないことくらい知ってるから。
「キミはそれしか言えないの?本当に語彙力がないねぇ」
汚い言葉を吐くことはなかったから、俺が知ってる精一杯の汚い言葉を吐いて。
見た目もそれに見合う格好をして。
馬鹿の一つ覚えのように同じ言葉しか吐かない、アホなやつを演じる。
「るせぇんだよ。早く消えろ、氏ね」
喧嘩をするのが好きな、気性の荒い"フルート"を演じ続ける。
俺のことを嫌いになって、お願いだから。
構うのをやめて、別な奴にでも持っていけばいいだろ?どうして俺なんだ。
なにもないまま、この関係を断ち切らせて。
それでも、構ってくるお前が悪いんだよ。
俺はこんなこと言いたくなかったのに、構ってきたお前が悪いんだ。
「――誰も食わねぇのに作ってくんな、材料が勿体ねーだけだろ」
それがどんなに相手を傷つけるかも知っていた。
言った瞬間、ものすごい痛みが心臓を突き破った気がした。
俺には耐えられるはずもなかった。
それでも言わないと、相手にはわからなかった。
今まで面倒なほど構ってきていたやつが消えても、なにも感じない。
感情を奪われたから。
それからどうするべきかという知識も、俺にはない。
知恵を奪われたから。
唯一残されたのは、俺が自ら動こうとする、意思。
「……食べようが食べまいが関係ないだろ。忘れるわけあるか」
思い出すのは菓子の甘みではなく、いかに遠ざけさせるか悩んだ苦い思い出。
どんなにギターを鳴らしても、うるさいからやめたまえ、そんな忠告も受けることのなくなった世界で。
「――あぁ、消えて清々した」
歪んだ世界がさらに歪んで滲んで見えて、また一人になった世界で呟いた。
これでよかったんだ。
そう、これで。
もう誰かを傷つけるのは、終わりにしようか。
フルートオリジンは穏やかで抜け目がないのです。アナザーは素直で喧嘩をするのが好き…だったかな。
本当は穏便に解決することもできたけれども、わざと暴言を吐くことで嫌いになってもらって、どこかに行って欲しかったのです。
フルートはきっと過去にいろいろやらかしたんです。だから近づくと危ないよ、みたいな。
抜け目がないから馬鹿を演じ続けてもボロが出ない。
つまるところはツンデレかもしれないです。
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